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[しっぽの気持ち] 犬と歩く人生=渡辺眞子

毎日JP 2012年2月28日

 元記事:http://mainichi.jp/life/housing/news/20120228ddm013070007000c.html

 日々の散歩。それは日課であり、犬たちとのコミュニケーションの時間でもある。

 やわらかな日差しと風を受けながらずんずん歩くのは心地よいけれど、空気が冷たい朝などおっくうに感じることもある。でも悪天候でない限り、休むことはない。私には一日のうちのほんの一部に過ぎなくても、クータにとっては待ち遠しいひとときなのだから。

 必ず出かける散歩。犬のためと言うが、犬とでも一緒でなければ、こんなふうにしっかり歩くこともないだろう。とすると、犬たちは家族の健康に貢献しているわけだ。

 犬と並んで歩いていると、一人ではきっと気づかないであろう風景や季節の移り変わりに目が留まる。例えば目にしみるほどの夕焼けとか、アスファルトのすき間から芽吹いた緑とか、今なら沈丁花(じんちょうげ)のつぼみのふくらみ加減とか。

 そして、犬がいるから生まれる出会いがある。同じような時間と場所で会ううち言葉を交わすようになり、互いの犬たちを見守る間柄になる。飼い主のいない猫に餌をやり、トイレの後片付けまで世話を行う地域猫活動をする人たちや、通学途中の小学生たちも長年の顔見知りだ。相手の名前も知らないまま、笑顔であいさつをし、会えなかった日は何となく物足りない。

 犬と歩く人生。ある日、それがぷつんと終わりを告げる瞬間が訪れる。相棒を失い、独りで歩いている姿を遠くから見かけるだけで、鼻の奥がつんとする。近づくにつれ、その人の目には見る見る涙があふれて、互いに言葉など出てきようもなく、私たちは、ただただ強く手を取り合う。

 犬でも、猫でも、その他の動物でも、人と長く共に暮らした生き物たちはそれぞれ特別な存在であり、家族の歴史の一部だ。そしてその寿命は人より短い。だから大切な毎日を幸せに送ってほしいし、震災により離ればなれに暮らす方とペットたちを思うといたたまれない。

 夏になれば、クータは10歳。まだまだ元気でやんちゃとはいえ、りっぱなシニアの年齢だ。一日でも長く、楽しく、一緒に生きてほしいと心から願う。母の形見でもある彼を、いつか母の手に返す日まで。(作家)
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