捕獲クマ処分する?しない? 実態見えず調査法見直しも
朝日新聞 より
各地でひんぱんに人里に出没して人や農作物に被害を与えたツキノワグマが、冬眠シーズンを迎える。捕獲されたクマをめぐっては、殺処分にすべきか山に放すべきなのか、自治体や地域住民、保護団体の間で対立や論争が起きた。背景には、そもそも生息数が増えているのか減っているのかもよくわからない実態がある。大量出没を受け、調査方法を見直す自治体が増えてきた。
「捕ったやつはとにかくもう放さんでくれ。お願いじゃけ」。岡山県美作市で17日に捕獲されたツキノワグマを見ながら、近くに住む男性(82)は視察に訪れた安東美孝市長に詰め寄った。クマの右耳には、1度捕獲されたことを示すピンク色のタグがついていた。
岡山県は、これまで目撃情報などから県内のクマ生息数を10頭前後と推定。「絶滅危惧(きぐ)種」に指定して、捕獲しても殺処分せず山中へ放す方針を守ってきた。だが、今年に入って捕獲されたクマは40頭を超えた。
相次ぐ捕獲に住民の間に「農作業中に襲われたらどうするんだ」との不安が強まった。これを受け美作市は周辺町村とともに岡山県に対策を要望。県も「人里近くに再度出没した場合は、原則として殺処分の対象とする」と方針転換せざるを得なくなった。
ただ、17日に捕まったクマは、「1度目に出没した地域が人里近くではない」との理由で山中に放された。県は「人里近くに2度出たという基準にあわないのに処分したら、保護団体などへの説明がつかない」という。
捕らえたクマを殺処分すべきか放すべきか――。自治体と住民、動物保護団体の対立は各地で起こっている。背景には、クマの生態や生息数が十分にわかっていないことがある。
生息数調査は各自治体にゆだねられているが、財政上の理由から調査していなかったり、推定した生息数の最小値と最大値が2倍以上かけ離れていたりする自治体も少なくない。朝日新聞が各自治体の推計を集計したところ、最低約1万6千頭から最大約2万6千頭と大きな幅があった。
生息数が少ない16都府県は「絶滅危惧種」などに指定している。また、今年度当初で18府県が鳥獣保護法に基づき、任意にクマの「特定保護管理計画」を定め、うち15府県で生息数の中間値の12%を目安に捕殺できる上限数を決めている。
だが、生息数自体があいまいなため、捕殺上限数も「実態を反映していない」との批判が強い。今年度に全国で捕殺されたクマは約3千頭。15府県内に限ってみると、上限は約1100頭なのに、すでに約1700頭が捕殺された。 クマの生息数は、どのように調査されてきたのか。
主流だったのが、猟師の経験を生かし、出没しやすい場所を選んで頭数を数える「目視調査」だ。
だが、クマは群れで行動するシカなどと違い、単独か母子で夜間に広い範囲で動くことが多いため、数を把握しにくい。奥山に入っての調査には危険も伴うため、どうしても精度は低くなる。数年に一度しか調査しない自治体も多く、「絶滅をおそれ、実際よりも少なめに見積もってきたのが実情」(環境省の担当者)だ。
このため、最近はより科学的な「ヘアトラップ」法や顔識別法が試みられている。ヘアトラップ法は10県超で実施し、長野県は「1300~2500頭」としていた生息数をこの調査により「1900~3700頭」に改めた。
このほか、兵庫県は2007年に立ち上げた「森林動物研究センター」に、一般公募による研究員6人と庁内公募の専門員5人を置いた。知識のある職員によって長期的に保護や被害対応に取り組むのが目的だ。かつて100頭前後としていた生息数も、約400頭に見直した。
人間とクマの共生をめざす日本クマネットワーク代表の山崎晃司・茨城県自然博物館首席学芸員は「あいまいな生息数調査を基にした対応は場当たり的だった。大量出没を繰り返さないために、実態に合わせて毎年調査する必要がある。科学的な根拠のない感覚的な対立が目立ったクマの増減について、地域ごとに冷静に見ていくべきだ」と話している。
各地でひんぱんに人里に出没して人や農作物に被害を与えたツキノワグマが、冬眠シーズンを迎える。捕獲されたクマをめぐっては、殺処分にすべきか山に放すべきなのか、自治体や地域住民、保護団体の間で対立や論争が起きた。背景には、そもそも生息数が増えているのか減っているのかもよくわからない実態がある。大量出没を受け、調査方法を見直す自治体が増えてきた。
「捕ったやつはとにかくもう放さんでくれ。お願いじゃけ」。岡山県美作市で17日に捕獲されたツキノワグマを見ながら、近くに住む男性(82)は視察に訪れた安東美孝市長に詰め寄った。クマの右耳には、1度捕獲されたことを示すピンク色のタグがついていた。
岡山県は、これまで目撃情報などから県内のクマ生息数を10頭前後と推定。「絶滅危惧(きぐ)種」に指定して、捕獲しても殺処分せず山中へ放す方針を守ってきた。だが、今年に入って捕獲されたクマは40頭を超えた。
相次ぐ捕獲に住民の間に「農作業中に襲われたらどうするんだ」との不安が強まった。これを受け美作市は周辺町村とともに岡山県に対策を要望。県も「人里近くに再度出没した場合は、原則として殺処分の対象とする」と方針転換せざるを得なくなった。
ただ、17日に捕まったクマは、「1度目に出没した地域が人里近くではない」との理由で山中に放された。県は「人里近くに2度出たという基準にあわないのに処分したら、保護団体などへの説明がつかない」という。
捕らえたクマを殺処分すべきか放すべきか――。自治体と住民、動物保護団体の対立は各地で起こっている。背景には、クマの生態や生息数が十分にわかっていないことがある。
生息数調査は各自治体にゆだねられているが、財政上の理由から調査していなかったり、推定した生息数の最小値と最大値が2倍以上かけ離れていたりする自治体も少なくない。朝日新聞が各自治体の推計を集計したところ、最低約1万6千頭から最大約2万6千頭と大きな幅があった。
生息数が少ない16都府県は「絶滅危惧種」などに指定している。また、今年度当初で18府県が鳥獣保護法に基づき、任意にクマの「特定保護管理計画」を定め、うち15府県で生息数の中間値の12%を目安に捕殺できる上限数を決めている。
だが、生息数自体があいまいなため、捕殺上限数も「実態を反映していない」との批判が強い。今年度に全国で捕殺されたクマは約3千頭。15府県内に限ってみると、上限は約1100頭なのに、すでに約1700頭が捕殺された。 クマの生息数は、どのように調査されてきたのか。
主流だったのが、猟師の経験を生かし、出没しやすい場所を選んで頭数を数える「目視調査」だ。
だが、クマは群れで行動するシカなどと違い、単独か母子で夜間に広い範囲で動くことが多いため、数を把握しにくい。奥山に入っての調査には危険も伴うため、どうしても精度は低くなる。数年に一度しか調査しない自治体も多く、「絶滅をおそれ、実際よりも少なめに見積もってきたのが実情」(環境省の担当者)だ。
このため、最近はより科学的な「ヘアトラップ」法や顔識別法が試みられている。ヘアトラップ法は10県超で実施し、長野県は「1300~2500頭」としていた生息数をこの調査により「1900~3700頭」に改めた。
このほか、兵庫県は2007年に立ち上げた「森林動物研究センター」に、一般公募による研究員6人と庁内公募の専門員5人を置いた。知識のある職員によって長期的に保護や被害対応に取り組むのが目的だ。かつて100頭前後としていた生息数も、約400頭に見直した。
人間とクマの共生をめざす日本クマネットワーク代表の山崎晃司・茨城県自然博物館首席学芸員は「あいまいな生息数調査を基にした対応は場当たり的だった。大量出没を繰り返さないために、実態に合わせて毎年調査する必要がある。科学的な根拠のない感覚的な対立が目立ったクマの増減について、地域ごとに冷静に見ていくべきだ」と話している。
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| 報道 | 08:21 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑