県内で相次いだ犬遺棄事件、その後は… /埼玉
MSN産経ニュース 2010/12/27
10月12日。東京本社からさいたま総局に異動して10日目の夜だった。夜勤の総局で机にあった書類の束を仕分けしていて、一枚の紙に目がとまった。読み進めていくうちに「これはすぐに動かなければ」と思い、直ちに書類の送り主に電話で取材した。
埼玉県坂戸市など県西部で「イタリアングレーハウンド」という種類の犬が路上などに放置され、大量に保健所に持ち込まれているのだという。すぐに県庁や県警などの関係機関にも取材、記事を執筆した。私自身、実家では7匹の犬を飼っている無類の犬好きだけに、怒りの感情は大きかった。
捨てられていたのはメスの老犬ばかりだった。専門家は「繁殖能力が落ち、高齢で病気なども予想されるため、処理に困ったブリーダーが捨てたのではないか」と声をそろえた。
しかし、捨てられた犬たちにとっては幸せな結末が待っていた。事件が大きく報道されたため、保健所や動物の殺処分を行う県動物指導センター(熊谷市)には里親希望の問い合わせが殺到、10月4~15日に保護された17匹すべてに引き取り手がついたのだ。
これで一安心と思いきや、意外にも取材したセンターの担当者は曇り顔だった。
「引き取り手がついたことが分かると、『埼玉なら捨てても大丈夫』と、また捨てにくる人が増えるかもしれない」
長年、飼い主の都合でセンターに持ち込まれ、殺処分されるペットたちを見送ってきた担当者。身勝手な飼い主の姿をいやというほど見ているだけに、この言葉は取材後も心に重くのしかかった。
その後、報道に誘発されたような遺棄は発生していないというが、県警の動物愛護法違反容疑での捜査は手がかりが少なく、摘発には至っていない。
センターの担当者は「ペットを捨てたら警察に捕まるということを知らしめるしか、再発防止はできない」と語った。
県内では4月にも、ペット葬祭業者が飼い主から預かった死骸を火葬すると偽って飯能市の山中に捨てる事件があった。業者は逮捕され、裁判で有罪判決を受けたが、この事件ほど飼い主の愛情を踏みにじるものはなかった。
この事件では、ペット業界の“いい加減さ”が次々と明らかになった。生きたペットを扱う業者とは異なり、ペット葬祭業者は自治体の許可は不要だ。
参入が容易な半面、価格競争が激しく、コスト削減のため火葬せずに死骸を捨てるといった“手抜き”も横行している。残念ながら、こんな状況は8カ月たった現在も変わっていない。
事件をきっかけに、被害者約300人は「伴侶動物死体遺棄・被害者の会」(細谷春美代表)を結成した。細谷代表は、遺棄現場からペットとみられる遺骨を回収し、8月には集まった募金で毛呂山町のペット霊園に大きな墓を作り、納骨した。
細谷さんらは今月、会のメンバー30人が原告となり、預けたペットの死骸を捨てていた元業者を相手取り、慰謝料などを求める訴訟をさいたま地裁川越支部に起こした。会では今後も訴訟活動や現場での遺骨回収作業を通じて、動物愛護の精神を世に伝えていきたいという。
最近ではペットに対する意識も変化し、家族の一員として大事に扱う家庭も増えている。そんなペットたちの命と尊厳を守れるのは、人間の「良心」しかないのではないか。捨てられたペットたちがこう訴えているような気がしてならない。
■ペット遺棄事件 4月、埼玉県飯能市の正丸峠に犬などの死骸が大量に捨てられているのが見つかり、県警は廃棄物処理法違反と葬式代をだまし取った詐欺容疑で元三芳町議を逮捕。さいたま地裁川越支部は9月、懲役2年6月、執行猶予4年、罰金50万円の有罪判決を言い渡し、確定した。10月には県西部で「イタリアングレーハウンド」という種類の室内犬のメスばかりが相次いで保護され、県警が動物愛護法違反容疑で捜査している。
10月12日。東京本社からさいたま総局に異動して10日目の夜だった。夜勤の総局で机にあった書類の束を仕分けしていて、一枚の紙に目がとまった。読み進めていくうちに「これはすぐに動かなければ」と思い、直ちに書類の送り主に電話で取材した。
埼玉県坂戸市など県西部で「イタリアングレーハウンド」という種類の犬が路上などに放置され、大量に保健所に持ち込まれているのだという。すぐに県庁や県警などの関係機関にも取材、記事を執筆した。私自身、実家では7匹の犬を飼っている無類の犬好きだけに、怒りの感情は大きかった。
捨てられていたのはメスの老犬ばかりだった。専門家は「繁殖能力が落ち、高齢で病気なども予想されるため、処理に困ったブリーダーが捨てたのではないか」と声をそろえた。
しかし、捨てられた犬たちにとっては幸せな結末が待っていた。事件が大きく報道されたため、保健所や動物の殺処分を行う県動物指導センター(熊谷市)には里親希望の問い合わせが殺到、10月4~15日に保護された17匹すべてに引き取り手がついたのだ。
これで一安心と思いきや、意外にも取材したセンターの担当者は曇り顔だった。
「引き取り手がついたことが分かると、『埼玉なら捨てても大丈夫』と、また捨てにくる人が増えるかもしれない」
長年、飼い主の都合でセンターに持ち込まれ、殺処分されるペットたちを見送ってきた担当者。身勝手な飼い主の姿をいやというほど見ているだけに、この言葉は取材後も心に重くのしかかった。
その後、報道に誘発されたような遺棄は発生していないというが、県警の動物愛護法違反容疑での捜査は手がかりが少なく、摘発には至っていない。
センターの担当者は「ペットを捨てたら警察に捕まるということを知らしめるしか、再発防止はできない」と語った。
県内では4月にも、ペット葬祭業者が飼い主から預かった死骸を火葬すると偽って飯能市の山中に捨てる事件があった。業者は逮捕され、裁判で有罪判決を受けたが、この事件ほど飼い主の愛情を踏みにじるものはなかった。
この事件では、ペット業界の“いい加減さ”が次々と明らかになった。生きたペットを扱う業者とは異なり、ペット葬祭業者は自治体の許可は不要だ。
参入が容易な半面、価格競争が激しく、コスト削減のため火葬せずに死骸を捨てるといった“手抜き”も横行している。残念ながら、こんな状況は8カ月たった現在も変わっていない。
事件をきっかけに、被害者約300人は「伴侶動物死体遺棄・被害者の会」(細谷春美代表)を結成した。細谷代表は、遺棄現場からペットとみられる遺骨を回収し、8月には集まった募金で毛呂山町のペット霊園に大きな墓を作り、納骨した。
細谷さんらは今月、会のメンバー30人が原告となり、預けたペットの死骸を捨てていた元業者を相手取り、慰謝料などを求める訴訟をさいたま地裁川越支部に起こした。会では今後も訴訟活動や現場での遺骨回収作業を通じて、動物愛護の精神を世に伝えていきたいという。
最近ではペットに対する意識も変化し、家族の一員として大事に扱う家庭も増えている。そんなペットたちの命と尊厳を守れるのは、人間の「良心」しかないのではないか。捨てられたペットたちがこう訴えているような気がしてならない。
■ペット遺棄事件 4月、埼玉県飯能市の正丸峠に犬などの死骸が大量に捨てられているのが見つかり、県警は廃棄物処理法違反と葬式代をだまし取った詐欺容疑で元三芳町議を逮捕。さいたま地裁川越支部は9月、懲役2年6月、執行猶予4年、罰金50万円の有罪判決を言い渡し、確定した。10月には県西部で「イタリアングレーハウンド」という種類の室内犬のメスばかりが相次いで保護され、県警が動物愛護法違反容疑で捜査している。
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