いのちに感謝! 宮崎に学ぶ“豊かな食卓” /宮崎
読売新聞 2011年02月19日
昨年、家畜伝染病・口蹄疫で多くの牛や豚が殺処分された宮崎県で、今年は高病原性鳥インフルエンザの猛威が収まらず、新燃岳の噴火被害も続いている。そうしたなか、第3回よみうり「大人の食育」リレー講座は、「いのちに感謝!~宮崎に学ぶ“豊かな食卓”~」をテーマに、2月5日、福岡市の読売新聞西部本社よみうりプラザで開かれた。宮崎大農学部教授、三澤尚明さんの基調講演の後、パネルディスカッション。三澤さん、料理家の栗原友さん、防疫・被害対策に追われるJA宮崎中央会会長の羽田正治さんの3人が、「いのちをいただく」意味について考えた。会場には約120人が詰めかけた。
◇パネルディスカッション
■パネリスト
宮崎大農学部獣医学科長 教授 三澤 尚明さん
料理家(ASEAN食の親善大使) 栗原 友さん
JA宮崎中央会会長 羽田 正治さん
■コーディネーター
読売新聞西部本社編集委員 田口 淳一
◆人と動物の絆 再認識を
田口 4年前にも鳥インフルエンザがあった。その経験は生きたか。
羽田 早く発見し、殺処分し、埋却することが家畜伝染病を封じ
込める一つの方法だと学んだ。今回はなかなか終息しない。
厳冬で、渡り鳥の飛来数は例年の2倍ぐらいと聞いた。
三澤 北海道から九州まで、野鳥から高病原性鳥インフルエンザ
ウイルスが見つかっている。渡り鳥が持ってきたのは間違い
ないだろうといわれている。
田口 栗原さんは鳥インフルエンザ発生の翌日、宮崎を訪ねられた。
栗原 機内で「大変なことになっているので、応援を」と機長の
アナウンスがあった。レンタカーで県内を回ったが、何回も
消毒をされ、緊迫感があった。
田口 口蹄疫の痛手も癒えぬうちだった。
羽田 県内飼育頭数の4分の1ぐらいに当たる、牛約7万頭、
豚約22万頭が殺処分された。1304戸から牛や豚がいなく
なった。朝、畜舎に行くと一頭もいない。いつもと違う光景に
立ち止まって動けなくなる。農家は精神的に参ってしまった。
三澤 都農、川南地区はいわゆる“ゴーストタウン”化してしまった。
一頭一頭大事に飼育されていたのだから、殺処分はつらかった
だろう。
田口 羽田さんは口蹄疫で多くを失い、多くを学んだとも発言された。
羽田 家畜伝染病のため隔離同然の生活を送った人たちがいた。
弁当などを差し入れてくれたのは農家以外の方だった。全国から
物心両面の支援があった。希薄になったといわれる人と人の絆が
こんなに深いものか、ありがたかった。
宮崎牛を知らしめることにもなった。100年ほど前から品種
改良し、全国和牛能力共進会(2007年)では日本一になった。
霜降りや色つやなどの判定で肉質4等級以上が宮崎牛ブランドだ。
宮崎の子牛は全国の有名産地に行っている。神戸牛も松阪牛も
飛騨牛も。それをわかっていただけた。
田口 消費者にとって大量の殺処分はやはり衝撃的なニュースだった。
三澤 確かにショックだったろうが、食肉となるため、毎日「いのち」
が失われているのも事実。肉食が禁じられていた1200年もの
間に、日本人には殺生を嫌うことが根付いたが、じつは、
「いのち」をいただいているということを忘れてはいけないと思う。
◆おいしく食べる気持ち大事 栗原さん
栗原 牧場で、食用になる大きな馬を前に「どう思うか」と聞かれた。
「ここまで立派に育ってくれたのだから、最後までおいしく
いただきたいという気持ち」と答えると、「育てている者には
それが一番うれしい」と言われた。
田口 栗原さんはよく市場を訪ねるそうだが、東南アジアの市場の印象は。
栗原 朝の市場に肉の塊が届き、それがパーツごとにさばかれる。
脳、目玉、尻尾などがぽんと置かれ、「おいしいよ」って言われる。
そのパーツを家庭でさばき丸ごと食べる。日本とのギャップに驚いた。
田口 日々の暮らしで食べているものが、かつて「いのち」であったと
いう実感が遠くなっている。
◆親と離れた子牛の涙に学ぶ 羽田さん
羽田 競り市で、親と離れた子牛が涙を流す。人はこんなふうに生きていた
ものを食べる。農家も娘を嫁に出したような気持ちだ。
飛騨や神戸へ会いに行って子牛をなでる。それが本当の農家かなあと
思う。
田口 動物福祉の考えに通じる話でもある。
三澤 殺処分された家畜の慰霊碑ができたが、日本に特有で、欧米にはない。
そこにアニマルウエルフェアという考え方は出てくる。
殺されるまでの生き方、生かし方、QOL(生活の質)を高めてやる
のが人の役割だという考えだ。
栗原 数年前イギリスのテレビで食のドキュメンタリー番組が放映された。
肉の値段が最下位ランクの鶏の飼い方に、「虐待に等しい」と言う人、
「ショックだがこのランクの肉でないと生活できない」と話す人がいた。
ロンドン留学中、スーパーで安い肉を手に取ると、友人から
「鶏に敬意を表せ、きちんとした育て方をされた安全で安心な肉を
手に取るべきだ」と言われたこともあった。
田口 ところで、口蹄疫後の農家の復興状況は。
羽田 被災農家のアンケートで85%が「再開する」と答えたが、昨年末で
20%ほど。鳥インフルエンザ、韓国での口蹄疫、
TPP(環太平洋経済連携協定)の問題などへの不安がある。
防疫体制をきちんとすることや、地域の畜産密度を下げること、
農家の精神的な苦痛を和らげるため専門家を張り付けることなど、
何とかしたいと頑張っている。
田口 最後に伝えたいことを一言ずつどうぞ。
三澤 「ヒューマン・アニマル・ボンド」(HAB)という欧米の言葉がある。
人と動物の強い絆は人にも動物にも良い影響を与えるということだ。
地球上の動植物がなくなれば人類も生きていけない。
それこそ口蹄疫がわれわれに教えてくれたことではないか。
栗原 海外に行くとき弁当箱を持っていく。行きは弁当を詰め、現地では
市場で総菜などを詰めてもらい、お昼に食べたりする。
食生活を豊かにするために、料理だけでなく、食材にも目を向けてほしい。
羽田 日本の食料が「こうあるべき」と考えることは農家だけの課題ではない。
農家と消費者が対立するようなテーマでもない。国民が共有すべき課題だ。
田口 宮崎が体験した試練を身近に引き寄せながら、「いのちをいただく」と
いうことを、いま一度考えるきっかけにしたい。
■基調講演「いま、『動物の福祉』を考える」
◆「苦痛からの解放」 欧米の潮流
戦後、動物性たんぱく質の需要が高まるにつれ、集約的畜産が採用されて
きました。ブロイラーのように、狭い所に閉じ込めて短期間に肥育させ出荷
するシステムです。その結果、死んでしまったり、病気になって抗生物質を
たくさん使わないと防げなかったりという問題が出てきた。
ここに、アニマルウエルフェア、動物の福祉という考え方が出てくるわけです。
日本人に特有の「かわいそう」という情緒的な動物愛護の考え方はいわば
人間中心で、欧米で生まれたアニマルウエルフェアは動物側に立った考え方
です。動物の飼養管理に配慮し、苦痛や不快な環境から解放するのを人の
義務としています。
口蹄疫の致死率は高くないが、伝染力は強い。しかも、発生国からは畜産物の
輸出が禁止されます。貿易上大きな問題で早く殺処分するという措置が
取られたわけです。
欧米では経済的な利益、合理性とのバランスを考慮して、殺処分することは
容認していますが、アニマルウエルフェアの考えとして、生きている間は
どのように生かしてやるかを大事にするわけです。
いずれ人に食べられる家畜だとしても、生きている間はストレスのない生活を
させてあげようという考えです。
それを評価するための「五つの自由」というのがあります。
〈1〉飢えと渇きからの自由
〈2〉不快からの自由
〈3〉傷害、痛み、病気からの自由
〈4〉恐怖、苦悩からの自由
〈5〉正常行動発現の自由。
集約的畜産では、〈5〉は非常に抑制されます。過度のストレスは肉質を変化
させることがあります。
EUは2007年に世界貿易機関(WTO)の農業交渉に家畜福祉問題を提案
しました。アニマルウエルフェアに配慮せず飼養した国の畜産物は輸入しない
ことなどを通商施策に導入しようとしています。
日本でも遅ればせながらその指針を作っていますが、アニマルウエルフェアの
議論はまだ盛り上がっていないのが現状です。
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昨年、家畜伝染病・口蹄疫で多くの牛や豚が殺処分された宮崎県で、今年は高病原性鳥インフルエンザの猛威が収まらず、新燃岳の噴火被害も続いている。そうしたなか、第3回よみうり「大人の食育」リレー講座は、「いのちに感謝!~宮崎に学ぶ“豊かな食卓”~」をテーマに、2月5日、福岡市の読売新聞西部本社よみうりプラザで開かれた。宮崎大農学部教授、三澤尚明さんの基調講演の後、パネルディスカッション。三澤さん、料理家の栗原友さん、防疫・被害対策に追われるJA宮崎中央会会長の羽田正治さんの3人が、「いのちをいただく」意味について考えた。会場には約120人が詰めかけた。
◇パネルディスカッション
■パネリスト
宮崎大農学部獣医学科長 教授 三澤 尚明さん
料理家(ASEAN食の親善大使) 栗原 友さん
JA宮崎中央会会長 羽田 正治さん
■コーディネーター
読売新聞西部本社編集委員 田口 淳一
◆人と動物の絆 再認識を
田口 4年前にも鳥インフルエンザがあった。その経験は生きたか。
羽田 早く発見し、殺処分し、埋却することが家畜伝染病を封じ
込める一つの方法だと学んだ。今回はなかなか終息しない。
厳冬で、渡り鳥の飛来数は例年の2倍ぐらいと聞いた。
三澤 北海道から九州まで、野鳥から高病原性鳥インフルエンザ
ウイルスが見つかっている。渡り鳥が持ってきたのは間違い
ないだろうといわれている。
田口 栗原さんは鳥インフルエンザ発生の翌日、宮崎を訪ねられた。
栗原 機内で「大変なことになっているので、応援を」と機長の
アナウンスがあった。レンタカーで県内を回ったが、何回も
消毒をされ、緊迫感があった。
田口 口蹄疫の痛手も癒えぬうちだった。
羽田 県内飼育頭数の4分の1ぐらいに当たる、牛約7万頭、
豚約22万頭が殺処分された。1304戸から牛や豚がいなく
なった。朝、畜舎に行くと一頭もいない。いつもと違う光景に
立ち止まって動けなくなる。農家は精神的に参ってしまった。
三澤 都農、川南地区はいわゆる“ゴーストタウン”化してしまった。
一頭一頭大事に飼育されていたのだから、殺処分はつらかった
だろう。
田口 羽田さんは口蹄疫で多くを失い、多くを学んだとも発言された。
羽田 家畜伝染病のため隔離同然の生活を送った人たちがいた。
弁当などを差し入れてくれたのは農家以外の方だった。全国から
物心両面の支援があった。希薄になったといわれる人と人の絆が
こんなに深いものか、ありがたかった。
宮崎牛を知らしめることにもなった。100年ほど前から品種
改良し、全国和牛能力共進会(2007年)では日本一になった。
霜降りや色つやなどの判定で肉質4等級以上が宮崎牛ブランドだ。
宮崎の子牛は全国の有名産地に行っている。神戸牛も松阪牛も
飛騨牛も。それをわかっていただけた。
田口 消費者にとって大量の殺処分はやはり衝撃的なニュースだった。
三澤 確かにショックだったろうが、食肉となるため、毎日「いのち」
が失われているのも事実。肉食が禁じられていた1200年もの
間に、日本人には殺生を嫌うことが根付いたが、じつは、
「いのち」をいただいているということを忘れてはいけないと思う。
◆おいしく食べる気持ち大事 栗原さん
栗原 牧場で、食用になる大きな馬を前に「どう思うか」と聞かれた。
「ここまで立派に育ってくれたのだから、最後までおいしく
いただきたいという気持ち」と答えると、「育てている者には
それが一番うれしい」と言われた。
田口 栗原さんはよく市場を訪ねるそうだが、東南アジアの市場の印象は。
栗原 朝の市場に肉の塊が届き、それがパーツごとにさばかれる。
脳、目玉、尻尾などがぽんと置かれ、「おいしいよ」って言われる。
そのパーツを家庭でさばき丸ごと食べる。日本とのギャップに驚いた。
田口 日々の暮らしで食べているものが、かつて「いのち」であったと
いう実感が遠くなっている。
◆親と離れた子牛の涙に学ぶ 羽田さん
羽田 競り市で、親と離れた子牛が涙を流す。人はこんなふうに生きていた
ものを食べる。農家も娘を嫁に出したような気持ちだ。
飛騨や神戸へ会いに行って子牛をなでる。それが本当の農家かなあと
思う。
田口 動物福祉の考えに通じる話でもある。
三澤 殺処分された家畜の慰霊碑ができたが、日本に特有で、欧米にはない。
そこにアニマルウエルフェアという考え方は出てくる。
殺されるまでの生き方、生かし方、QOL(生活の質)を高めてやる
のが人の役割だという考えだ。
栗原 数年前イギリスのテレビで食のドキュメンタリー番組が放映された。
肉の値段が最下位ランクの鶏の飼い方に、「虐待に等しい」と言う人、
「ショックだがこのランクの肉でないと生活できない」と話す人がいた。
ロンドン留学中、スーパーで安い肉を手に取ると、友人から
「鶏に敬意を表せ、きちんとした育て方をされた安全で安心な肉を
手に取るべきだ」と言われたこともあった。
田口 ところで、口蹄疫後の農家の復興状況は。
羽田 被災農家のアンケートで85%が「再開する」と答えたが、昨年末で
20%ほど。鳥インフルエンザ、韓国での口蹄疫、
TPP(環太平洋経済連携協定)の問題などへの不安がある。
防疫体制をきちんとすることや、地域の畜産密度を下げること、
農家の精神的な苦痛を和らげるため専門家を張り付けることなど、
何とかしたいと頑張っている。
田口 最後に伝えたいことを一言ずつどうぞ。
三澤 「ヒューマン・アニマル・ボンド」(HAB)という欧米の言葉がある。
人と動物の強い絆は人にも動物にも良い影響を与えるということだ。
地球上の動植物がなくなれば人類も生きていけない。
それこそ口蹄疫がわれわれに教えてくれたことではないか。
栗原 海外に行くとき弁当箱を持っていく。行きは弁当を詰め、現地では
市場で総菜などを詰めてもらい、お昼に食べたりする。
食生活を豊かにするために、料理だけでなく、食材にも目を向けてほしい。
羽田 日本の食料が「こうあるべき」と考えることは農家だけの課題ではない。
農家と消費者が対立するようなテーマでもない。国民が共有すべき課題だ。
田口 宮崎が体験した試練を身近に引き寄せながら、「いのちをいただく」と
いうことを、いま一度考えるきっかけにしたい。
■基調講演「いま、『動物の福祉』を考える」
◆「苦痛からの解放」 欧米の潮流
戦後、動物性たんぱく質の需要が高まるにつれ、集約的畜産が採用されて
きました。ブロイラーのように、狭い所に閉じ込めて短期間に肥育させ出荷
するシステムです。その結果、死んでしまったり、病気になって抗生物質を
たくさん使わないと防げなかったりという問題が出てきた。
ここに、アニマルウエルフェア、動物の福祉という考え方が出てくるわけです。
日本人に特有の「かわいそう」という情緒的な動物愛護の考え方はいわば
人間中心で、欧米で生まれたアニマルウエルフェアは動物側に立った考え方
です。動物の飼養管理に配慮し、苦痛や不快な環境から解放するのを人の
義務としています。
口蹄疫の致死率は高くないが、伝染力は強い。しかも、発生国からは畜産物の
輸出が禁止されます。貿易上大きな問題で早く殺処分するという措置が
取られたわけです。
欧米では経済的な利益、合理性とのバランスを考慮して、殺処分することは
容認していますが、アニマルウエルフェアの考えとして、生きている間は
どのように生かしてやるかを大事にするわけです。
いずれ人に食べられる家畜だとしても、生きている間はストレスのない生活を
させてあげようという考えです。
それを評価するための「五つの自由」というのがあります。
〈1〉飢えと渇きからの自由
〈2〉不快からの自由
〈3〉傷害、痛み、病気からの自由
〈4〉恐怖、苦悩からの自由
〈5〉正常行動発現の自由。
集約的畜産では、〈5〉は非常に抑制されます。過度のストレスは肉質を変化
させることがあります。
EUは2007年に世界貿易機関(WTO)の農業交渉に家畜福祉問題を提案
しました。アニマルウエルフェアに配慮せず飼養した国の畜産物は輸入しない
ことなどを通商施策に導入しようとしています。
日本でも遅ればせながらその指針を作っていますが、アニマルウエルフェアの
議論はまだ盛り上がっていないのが現状です。
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